閉鎖病棟に入院していた時の話1

目が覚める。見慣れない天井。母親と叔父が心配そうな顔でこちらを見ている。白衣をまとった異常者が非論理的な話をしている。俺は自分に絶対の自信があるから、黙ってそれを聞いている。手元にカレーライスが運ばれてくる。病院食は味が薄すぎるが、腹が減っているから手を止めずに食べ続ける。頭が重い。薬を飲みすぎたせいだろうか。今は何時だ?俺のiPhoneはどこにいった?そんな目で俺を見るなよ。この通り、いつも通り、俺はちゃんと物事を考えられるし喋れるし歩けるんだぞ?なんで入院しなきゃならないんだよ。お前たちに俺の次の行動を決める権利があるのか?俺の人生の責任は俺にしか取れないだろうが。医師と看護師に作られた道を歩く。マイクロバスから降りると、想像してた通りの薄暗い廊下が続いている。30歳ぐらいの女性看護師が不自然な明るさで俺にしゃべり続ける。「ここの自動販売機のパンは、意外と美味しいんだよ!ね、先生?」俺は生返事をしながら考える。状況を整理する。ここから逃げるためには今のうちに院内の構造を把握しておくことが不可欠だからだ。ここは何階だ?出口はいくつある?鍵は?常駐の職員の数は?辺りを注意深く見渡しながら歩く。しかし、何も情報が頭に入ってこない。ここで自分が眼鏡をかけていないことに気づく。なにがなんだかよくわからないが、このままではヤバいなと感じる。そうこうしているうちに、俺がここからしばらく生活することになるらしい個室に到着する。背後で鉄製の分厚い、重そうな扉が看護師の作られた優しい声とともにガシャンと閉まる。鍵と鍵穴が無機質な高音を響かせる。この部屋にはマットレス、掛布団、枕の三つしかモノがない。